第9回 開催報告|特別対談:「働く場での『社会正義』をとらえる視点」――米国最先端のワーキング心理学と職場の「尊厳(ディグニティ)」

第9回社会正義のキャリア支援研究会開催報告

第9回 開催報告

特別対談:「働く場での『社会正義』をとらえる視点」
――米国におけるワーキング心理学の動向と職場の「尊厳(ディグニティ)」

📅 開催日:2025年10月12日(日)10:00〜12:30 💻 開催形態:オンライン(Zoom)👥 参加人数:67名

【ご登壇者】

道谷 里英 氏(順天堂大学国際教養学部 先任准教授 / Boston College Visiting Scholar)

下村 英雄 氏(当研究会顧問 / キャリア心理学者 / 東京成徳大学大学院講師)

ボストンカレッジの風景および特別対談のイメージ

【開催概要】

第9回研究会では、ワーキング心理学の提唱者であるD.L.ブルスティン博士のもと(ボストンカレッジ)で客員研究員として研究に従事された道谷里英先生をお招きし、当研究会顧問の下村英雄先生との特別対談および講義を行いました。当日はキャリア支援者、研究者、企業実務家など67名が参加し、「組織におけるキャリア自律のあり方」「働く場における人権と尊厳(ディグニティ)」「批判的意識(Critical Consciousness)」を軸に、多角的な議論が行われました。

【第1部】特別講義:道谷里英先生「働く場での『社会正義』をとらえる視点」

道谷先生からは、ボストンカレッジでの滞在研究で得られた米国の最新知見と、ご自身の企業人事および組織内カウンセリングの実務経験を踏まえた講義が行われました。

  • 「社会正義」の多面性と動的な定義:社会正義を固定された状態として捉えるのではなく、自由と安全の不均衡に配慮しながら個々の文脈に応じて模索し続ける「姿勢(スタンス)」として捉える捉え方が紹介されました。
  • 職場の「尊厳(ディグニティ)」の2つの側面:能力や成果に基づく「獲得された尊厳」にとどまらず、一人ひとりの人間として等しく尊重される「固有の尊厳」を保障することが、個人の心理的欲求を満たし、自律的な行動の基盤となることが示されました。
  • 構造を見つめる「批判的意識(Critical Consciousness)」:個人や特定の立場を一方的に批判するのではなく、「何がその問題や構造を生み出しているのか」という客観的な視点を持つこと、そして支援者自身が持つ特権(Privilege)や置かれた環境を認識して関わること(アドボカシー)の意義が共有されました。
道谷里英先生の講演スライド鑑

【第2部】下村英雄顧問による理論解説&ディスカッション

後半では、下村先生よりブルスティン博士の研究の歩み(「フォーゴットンハーフ(忘れられた下半分の人々)」に関する研究から尊厳研究への展開)について理論的な整理がなされました。従来の客観的な記述にとどまらず、価値前提を明確にして働く人の権利と支援のあり方を捉え直す視点が示されました。

続くディスカッションでは、企業組織における「キャリア自律」が過度な自己責任論に陥るリスクや、ハラスメント・組織環境に直面する現場での支援の葛藤について、参加者を交えた意見交換が行われました。

研究会当日の対談およびディスカッションの様子

【参加者の学びと気づき】

当日の振り返りアンケートに寄せられた、参加者の皆様からの主な気づきや感想をご紹介します。

1. 自己責任論を超えた「批判的意識(構造的視点)」の大切さに気づけた

「『キャリア自律』の強調に伴うリスクを考えさせられました。言葉が一人歩きする中で、何が問題を作り出しているのかという『批判的意識』を持ち、個人への働きかけだけでなく環境や制度の側にも目を向ける重要性を認識しました。」(フリーランス・キャリア支援者)

「社会正義が尊厳を守る取り組みであり、批判的意識を持って背景の構造にアプローチすることが大切であると改めて理解しました。」(行政機関職員)

2. 職場で人の「尊厳(ディグニティ)」を守る視点を深められた

「成果や生産性が最優先される環境の中で、どのように『ディーセント・ワーク』と『ディグニティ(尊厳)』を守るか、キャリア支援者のあり方を改めて捉え直す機会となりました。」(公的支援機関・相談員)

「能力主義に基づく尊厳だけでなく、人間として等しく尊重される『固有の尊厳』の視点を持つことの重要性を学びました。」(キャリアコンサルタント)

3. 最新の研究成果と学術的バックボーンを整理して理解できた

「ボストンカレッジでの研究成果をご共有いただき、ワーキング心理学の概論や沿革を体系的に理解することができました。」(大学教員・研究者)

「フォーゴットンハーフの研究から現代の議論に至る潮流が提示され、社会正義の概念を歴史的・理論的文脈の中で捉えることができました。」(NPO支援活動家)

4. 支援現場で抱えていた課題や葛藤を言語化できた

「普段の支援現場で感じていた課題や違和感が言語化され、概念として整理されていく感覚がありました。」(企業内キャリアコンサルタント)

「企業経営の視点から社会正義の取り組みをどのように根付かせるかという現実的な問いに触れ、思考が深まりました。」(民間企業勤務)

5. 立場を超えてフラットに本質を語り合える場だと実感した

「参加者の質問や意見が講義内容と結びつき、対話を通じて多角的な学びが得られる機会となりました。」(キャリアコンサルタント)

「背景の異なる参加者が集まり、フラットな雰囲気の中で本質的な議論を行える場だと感じています。」(産業カウンセラー)

【顧問・下村英雄先生からの振り返りコメント】

第9回研究会を終えて

今回は、ボストンカレッジから帰国されたばかりの道谷里英先生をお迎えし、非常に密度の高い貴重なお話をいただきました。道谷先生の発表は、冒頭から最後まで共感することばかりで、私自身も大変勉強になり大いに刺激を受けました。

特に印象深かったのは、ブルスティン博士が近年重視している『職場の尊厳(ディグニティ)』や『批判的意識』の捉え方です。ILOによる従来のディセント・ワークの議論が近年経済成長優先に傾きがちな中で、現場で働く一人ひとりが本質的に持っている『人間としての尊厳』を守ること、そして何がその悩みや不平等を作り出しているのかという社会的・構造的な視点を持つことの大切さが明確に提示されました。

当日は当研究会として過去最多となる皆様にお集まりいただき、第一線で活躍される実践者や研究者の先生方から、今回初めてご参加いただいた方まで、大変活発で温かい意見交換が行われました。立場を超えて素朴な疑問や現場での葛藤を持ち寄り、共に学びを深めてくださった参加者の皆様に心より感謝申し上げます。これからも国内外の最新の知見と現場の実践を繋ぎながら、皆さんと共に考え、対話を重ねていきたいと思います。本日はありがとうございました。

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